DATE 2009.12.20 NO .



「もう少しで見つかる――そう、思うの」


 モブリズで見たティナの表情が、瞼裏に焼きついている。
 あんな彼女、初めて見たから。

「ティナは……変わったのね」

 同じ世界に在ったはずの彼女は今、あの日々には想像もしえなかった場所へ。
 だから、こんな気持ちになるんだろうか。

「そうだなぁ」

 言いながら、マッシュが今まで歩いてきた道を振り返る。
 既にモブリズは、遠い。

「確かにティナは、あの子達の母親になった――もっとも、俺には母上の記憶なんて無いんだけどな」

 家族、なんて。
 いくつこの手で握りつぶしてきたか、なんて。

 全然、覚えてない。

「でもな」

 おじいちゃん、と呼ぶのをやめた。
 常勝将軍として、敗者の屍で道をつくった。

 「おじいちゃん」を取り戻しても、
 彼らは決して、帰っては来ないけれど。

「セ――」
「私も変われるんだろうか」

 あ…!

「ご、ごめんなさいマッシュ」

「いや、いいけど……ははっ…」

「マッシュ?」

「そう思っているセリスはさ、もう、大丈夫なんじゃないか?」

 にっと白い歯を見せて笑うマッシュはやっぱり、私には手の届かない場所にいるような。
 コホンと咳払いひとつして、前を向いて、もう一度。

「でもな、セリスも変わったと、俺は思うよ」

 この世界で生き抜いてやろうと未来を見据えたように。

「昨日の自分と今日の自分は違うだろ?」

 あの世界を乗り越えてやろうと過去を振り返れるように。

「皆変われるんだよ、出来ないはずがない……生きてさえいれば、な」



 ――求めても、いいだろうか。
 私の世界に、あの、ぬくもりを。







≪あとがき≫
 青薔薇も、今では不可能の象徴ではなくなりましたね確か。まぁブーケをつくろうものなら涙目になりそうな値段ながら、いつかはきっと、安くなるはずで。
 そんな感じで(どんな感じで!?)、大変な道ではあるけどいつか、いつかきっと手が届くもの。そんな風に捉えて頂ければ。

 ところで、「少女」はティナとセリスの他にあともう一人、含ませたつもりであります。
 さて、彼女の青薔薇は何処に咲く?





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